東京高等裁判所 昭和59年(ネ)3373号 判決
二 以上のような事実関係の下において、訴外正市の所為が不法行為を構成するかどうかについて検討するに、ある土地が建築物の敷地として既に建築基準法四三条一項所定の接道要件を充足し又は同法四二条一項五号所定の道路位置指定を受けることによって接道要件を充足させることができるものとして売買された場合において、後に接道要件を充足することができないことが判明したときは、当該土地の買主は、右の瑕疵が存在することを知らなかったことにつき過失がなかったときに限り、民法五七〇条の規定によって売買契約を解除し又は売主に対して損害賠償の請求をすることができることがあるものと解することができ、右のような売買における売主は、右のような意味においては買主に対して当該土地が接道要件に適合するようにして売買すべき義務を負っているものということができる。
しかしながら、売主の右のような義務は専ら買主に対する契約上の義務にすぎないのであって、当初から不特定多数の消費者に販売されることがその性質上当然に予定されている商品に生命、身体等に重大な危険を及ぼすような瑕疵がある場合において製造者が直接契約関係に立たない消費者に対しても不測の損害を被らないようにすべき高度の注意義務を負うものと解される(いわゆる製造物責任の例)のとは異なり、本件事案における売買の目的たる土地又は建物は当然に転売されることが予定されているものでもなければ、それに控訴人の主張するような瑕疵があっても生命、身体等に重大な危険を及ぼすという類いのものではないのであるから、売主としては未だ不特定かつ潜在的な転得者に対して一般的に右のような瑕疵に気付かずに土地又は建物を取得してこれによって不測の損害を被ることがないようにすべき高度の注意義務を負うものと解すべき余地はないものといわなければならない。
したがって、このような場合にあっては、土地又は建物の売主が買主と共謀したうえ転得者を欺罔し転得者に損害を加える意思をもって当該土地を売買したとか、売買契約当時において既に転得者が特定していて、売主としても当該特定の転得者が損害を被ることを容易に知りうべき事情があったなど、特段の事情がない限り、売主が当該土地の転得者に対して不法行為責任を負うことはないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、≪証拠≫によれば、先に説示した道路位置指定の申請、分譲販売、分筆登記手続等は、いずれも訴外正市の委任を受けた建築業者、不動産業者、土地家屋調査士等によって行われたものであって、必ずしも訴外正市の具体的な指図等によって行われたものではないし、訴外正市が関係土地又は建物を訴外栗原又は同森に売り渡した当時において既に転得者として控訴人が予定されていた訳ではなく、訴外正市が控訴人と訴外栗原又は同森との間の転売契約に全く関与していないのはもとより、訴外栗原又は同森との売買契約の締結についてさえ自ら直接これに当たったものではないことが認められるのであって、本件全証拠によっても訴外正市に先にみたような転得者たる控訴人に対して不法行為責任を負うべき特段の事情が存在することを認めるには足りない。
(西山 越山 村上)